私が昔読んでものの見方が変わった本として、原研哉さんの「白」という本がある。この本は、無印良品のアートディレクションも担当されている原研哉さんが、「白」という色を、色だけでなく、空白、余白といった概念にまで解釈を広げて説明していることが特徴だ。私が特に印象に残ったのは『白は完成度というものに対する人間の意識に、影響を与え続けた』という一文だ。なぜ白が完成度というものの意識に影響を与えているのか。その理由は大きく分けて二つ述べられている。一つ目は、白色の紙が情報伝達に大きな役割を担っていたということだ。紙に文字を書く際、その文字が汚い、読みにくいと、他の人間に情報が伝達できないため、誰にでも見やすい文字を書こうという意識が生まれている。二つ目は、白い紙に黒いインクで文字を書くという行為は後戻りできない不可逆的なものであるということだ。間違えそうなもの、未成熟なものは紙の上に書いてはいけない、という暗黙の了解が、その不可逆性から生まれたのだ。言われてみれば当たり前、と思われるかもしれないが、そのくらい「白色」「空白」「余白」といった概念は日常に溶け込んでいる。そんな概念に対して、歴史的な背景を基に筋道を立て、著者自身の感性が説明されている。そんなこの本は、日常に新たな見方を提案してくれる良本と言え、皆にもぜひ読んでいただきたい。