老子の「足るを知る者は富み、強(つと)めて行う者は志有り」という格言をご存じだろうか。この言葉は、満足を知る人こそ本当に豊かであり、努力を続ける人はそれ自体で志(目的)を成し遂げているという意味だと言われている。私は一般的には定年だと言われる年を迎え、この言葉に従来にはなかった共感を覚えるようになった。人類は生活の豊かさを追求し、発展を究極の目的とし続けてきた。しかし、発展の意味を深く考えると、物質的な豊かさの追求が必ずしも幸福につながるわけではないことに気づかされる。物質的な効率や利便性だけでは虚無感を生む場合もあり、人間らしい不調和や文化、習慣の中にこそ真の豊かさがあるのではないだろうか。AIやロボットの進化により、便利さが増す一方で、その使い方を誤れば深刻な問題を引き起こしかねない。こうした状況だからこそ、老子の言葉が一層心に響く。自分の環境に満足を見いだしつつ、日々の努力を大切にし、地道に目的に向かってコツコツ生きていきたいものだ。